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優しい手のぬくもり。(12)

 ――季節は夏。けっして寒いわけじゃない。それなのに、男の人に嫌われると思うと身体が冷たくなっていく……。 「わたしはそんないいモノではないけれど……たしかにソレに近しいモノは持っているかな?」 (近いもの? だったら、僧侶さんとかかな?)  男の人について、アレコレ考えていると……。  クスリと笑う男の人の声が聞こえた。  僕は男の人の笑った顔が見たくて、視線を上げると、男の人は目を細めて――まるで僕を(いつく)しむように優しく微笑んでくれていたんだ……。  それだけで、冷たくなった身体はあたたかくなる。 「僕、眠ってしまうと霊体に狙われちゃうんです。前も、意識を飛ばした時に大切な家族を殺しかけてしまって……。幽霊を見たり、声も聞こえたりして……だから……」 「なるほど。それで今朝、君が車に()かれそうになった原因がわかったよ。少女の幽体が近くにいたからね」  ……やっぱりこの人は、あの子が見えていたんだ。 「あの、僕、ここにいるとご迷惑がかかります。家に帰るので、帰り道を教えてください!!」  ――この人は霊媒師じゃないけれどそれに近い存在だと言った。  だから今は大丈夫かもしれない。でも、この人だって人間だ。いつ、どこで僕の体質が悪化してしまってもおかしくない。この人の霊力が少しでも不安定になれば、僕は必ずこの人を襲うだろう。たとえ、すごい霊感があったとしても、これ以上迷惑をかけられない。だったら一刻も早く、ここから去るべきだ。

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