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優しい手のぬくもり。(14)
「さあ、ご飯を作ろうね。その分ではまともに食事してないでしょう? 食べられる時に食べておいた方がいい」
「えっ!? えっ!? あのっ!!」
僕はとても恐ろしい体質だ。早くこの人から離れなきゃいけない。そう言ったのに、男の人は何も聞いていなかったように、にっこり笑うんだ。
「……とはいえ、食事を摂っていなかったようだし、かためのご飯を口にするのは良くないね。お粥 でも作ろうか」
「……はい」
(……って、えっ?)
思わず頷いてしまったけれど、お粥じゃなくて!!
早く帰らなきゃ迷惑がかかってしまう!!
立ち上がる男の人と一緒に僕も慌てて立ち上がった。
「紅 」
男の人はそう言うと、僕の肩に手を乗せ、ベッドに腰かけるよう仕草で促す。
「……へ?」
「それがわたしの名前だよ?」
告げられた言葉の意味がわからず聞き返すと、男の人はそれが何を意味するのかを教えてくれた。
「あ、僕は、比良です。美原 比良 」
男の人が名乗ってくれたから、僕も名乗らなきゃと反射的に名乗ったものの、今はそんな場合じゃない。僕は今すぐ、ここから出なくちゃいけない。
「比良くんか……。容姿と同じで、名前も美しい」
紅さんは、「よろしくね」と付け加え、呆然としている僕を尻目に部屋を出て行ってしまった。
(…………えっと)
部屋にひとり、残された僕は、ただただ困惑するばかりだ。だって、僕は自分の体質のことを話した。
どんなに優しい人でも、どんなに霊能力が強い人でも、僕の身の上は厄介なものでしかない。それなのに紅さんは嫌な顔ひとつしないなんて……。
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