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悲しみと苦しみと。(2)
いつもなら、目元にある皺をくしゃくしゃにして微笑んでくれる。だけど今は違う、今は目尻を吊り上げ、憎々しげに見下ろしてくる。
こんな暴力的な父さんを見るのは初めてだ。
僕は信じられない気持ちでいっぱいだった。
「どうして? 父さん……」
こんな暴力的な父さんは知らない。だけど、どこからどう見ても彼は僕の父、美原 清人 さんだ。
目を真っ赤に充血させている姿はとても怖い。
「どうして……だと?」
父さんの声は表情と同じくらい恐ろしく、おどろおどろしい。
口からは毒でも吐いているかのような、何とも言えない血なまぐさい匂いがした。
覆い被さっている父さんを見上げながら、僕は恐怖で何もすることができず、まるで身体が縛られたように動けない。
――本当は……こうなることを恐れていたのかもしれない。
僕は知っている。死した父が今、なぜ、僕の前に現れたのかを……。
捨てられた僕を拾ってくれた優しい父さんの命を、僕が縮めたからだ。
恩を、仇で返すとはこういうことを言うんだろうと思う。きっと父さんは僕が憎くてたまらないんだ。
「父さん……」
「黙れ!!」
僕が、『父』と呼ぶと、父さんは僕の首に手をかけた。その手には少しずつ力が込められていく。
いったい、この細い腕のどこからこんなに強い力が出るのだろう。
ギリギリと骨が軋 む耳障りな音が聞こえる。
父さんの怒りがどれほど大きなものなのかがわかる。
(苦しい。息ができない……)
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