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悲しみと苦しみと。(7)
紅さんの言っている意味がわからない。僕は必要以上に瞬きを繰り返した。その反動で、目から溢れた大粒の涙が、ポロポロ零れる。
涙を流す僕の肩を、紅さんは引き寄せて抱きしめてくれる。
見上げると、なんだろう。目尻と眉尻は下がりきっていて、綺麗な赤茶色の目は潤んでいる。 すごく悲しそうな笑顔だった。
……トクン。
トクン。
僕の耳の傍にある、紅さんの心音が聞こえる。
その優しい心音はまるで、僕を慰めてくれているかのようだ……。
「君の心は、闇側にとって付け込みやすいものなんだよ。人間っていうのはね、波動というものを持っているんだ。波動っていうのは、感情の一種だと思ってもらってかまわないよ。感情は、身体の周りにこびりつく。それが波動になるんだ。『楽しい』気持ちや、『明るい』気持ちになっていると、波動が引き寄せるモノも『明るい』だとか、『楽しい』モノになる。だけれどね、『悲しい』や、『恐怖』という感情を持ってしまえば、『暗い』だとか、『悲しい』モノが集まる」
(――あ)
そこで僕は紅さんが言わんとしていることをようやく理解した。
僕が悲しい気持ちを抱いていると、悲しいモノしか集まらなくなる。つまりはそういうことなんだ。
ということは、紅さんは僕が家に帰っても誰にも歓迎されていないことを知っているわけで……。
(……なんだ)
もうとっくに、僕の嘘はバレていたんだ……。
無理してまで、紅さんに醜い笑顔を見せる必要はなかったんだ……。
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