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悲しみと苦しみと。(8)
「酷いことを言ってごめんね」
ううん、酷いことなんか言ってない。
紅さんは、真実を言っただけ……。
それなのに、どうしてだろう。
僕、涙が止まらない。
今、僕はとても悲しい。そうやって一度自分の感情を肯定してしまえば、すごく苦しい。
すごく、辛い。
なんで僕はこんな運命を背負って生まれてきたんだろう。僕だってみんなみたいに家族から愛されたかった。日常のなんでもないことを普通に生きていきたかった。
「っ、ふっ……ふぇ……」
涙が、また止めどなく流れる。
そんな僕の身体を、紅さんはあたたかい腕で包み込んでくれている。
この腕があるから、僕はよけいに泣いてしまう。
「……ごめんね」
そう言った紅さんの方が苦しそうなのはなぜだろう。
貴方は苦しむ必要なんてない。
すべては僕が生きているせいだ。
お願いだから、僕のために心を痛めないで……。
悲しまないで……。
それを伝えるため、僕は首を横に振る。
こんな厄介な体質になっている僕でも、紅さんは受け入れてくれている。
そう思うと、また涙が溢れてくる。
「比良くん、平気なフリはしなくてもいい。出逢ったばかりで信じられないとは思うが、わたしは君の環境を理解している。少なくとも、わたしの前では平気なフリなんてしなくてもいい」
……優しい言葉。
……あたたかい腕。
僕は恐る恐る手を伸ばし、紅さんの背中にしがみ付く。
そうしたら、僕の背中に回っている腕の力も、さっきより強くなった。
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