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悲しみと苦しみと。(12)
(……苦しい)
僕は悲しみから逃れたくて、紅さんから視線を外した。
「さっきのアレは君の体力まで奪ったのか……」
(――えっ?)
てっきり紅さんは、僕のことを厄介な奴だと思ったのだとそう思った。
(僕を嫌ってのことじゃない?)
(紅さんが言った、『さっきの、アレ?』って?)
「比良くん、アレは君のお父さんではないよ。アレは、そういう悲しい心に付け込んできた魔物だ……」
紅さんはそう言うと、今度は僕に向かって優しく微笑んでくれた。
それは僕のことを、『嫌っていない』って言っているようだ。
(紅さんに嫌われていない)
そう思うと、少し安心した単純な僕はそこでようやく紅さんが言った『さっきのアレ』が、何を意味するのかを理解できた。
紅さんが言った『アレ』とはつまり。
さっき、僕の夢の中に出てきた父さんのこと……。
「ま、もの?」
(でもさっきの霊体は父さんだよ? 魔物なんかじゃない)
意味がわからなくて尋ねれば、
「そう。どう話せばいいかな……」
紅さんは少し考えた後、僕にもわかるよう、さっき夢で体験した出来事の真実を教えてくれる。
「人間の身体というものはね、『魂』と、その魂が入る『肉体』という器から成り立っているんだ。眠りは、魂と身体が唯一分離する時間でね、魂は人が眠っている間に、異世界――つまりはパラレルワールドを体現し、器としての身体が目覚める時間まで、あらゆる時空を旅するんだ。身体から離れた君の魂はおそらく、魔物が巣食うパラレルワールドへと行ってしまったんだろう」
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