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紅さんとドキドキバスタイム(1)
目の前の蛇口から流れるお湯はざあざあと勢いよくバスタブに流れていく――。
「比良 の髪は美しいね」
頭上から聞こえてくるこの声は紅 さんのもの。
彼の声がバスルームに膨張して響いている。
少し高い窓から外を見れば、もう空は真っ暗で綺麗なお星さまが点々と輝いていた。
髪の毛に触れる優しい感触はとても気持ちがいいものなんだけど……。
気持ちがいいとは恥ずかしい方が先立っている。
だって今日初めて出会った人と一緒にお風呂に入るなんて恥ずかしすぎるんだもん。
「………………」
――はい。僕は今、バスタオルを目いっぱい身体に巻きつけて、紅さんの膝の上に座っています。
そして僕の汚らしい灰色をした長い髪の毛を洗ってくれています。
どうやら紅さんは僕の汚らしい髪が気に入ったらしい。お風呂には一緒に入れないって、拒んだら、髪の毛だけでも洗わせて欲しいと頼み込まれ、今に至ります。
紅さんの家にあるバスルームは、大人3人くらい余裕で入れてしまうほど広い。黒と白のタイルで覆われているここは、とてもシックで清潔感がある。天井からはオレンジ色をした白熱灯が、よりシックな雰囲気を醸 し出していた。
父さんと一緒に住んでいた家のお風呂はヒノキの香りがしたけれど、ここは薔薇の香りに包まれていて、なんだか不思議。まるで紅さんの中にいるみたい。
(あ……そっか……。バスルームの薔薇の香りは、紅さんと同じなんだ)
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