61 / 253
紅さんとドキドキバスタイム(5)
ドクン。
紅さんを視界に入れた瞬間、僕の胸が大きく跳ねた。
「も……へいきです……」
言った声は震えている。
なんだろう。
怖いから震えているんじゃない。
お腹の底がムズムズして、声が震えてしまうんだ。
「良かった……。さ、残りの泡も流してしまおう」
紅さんは元通りの優しい笑顔になると、僕から身体を離した。
「あ…………」
「うん?」
不意にあたたかい体温がなくなって、僕は思わず声を出してしまった。
そんな僕に紅さんの整った顔がまた近づいてくる。
「っつ!!」
どうしよう。
まさか寂しいから声を上げたなんて言えない……。
「なんでも……ないです」
恥ずかしい。
どうして……。
どうして16歳にもなって、人肌が恋しいとか……そう思うんだろう。
僕は自暴自棄に陥って、紅さんから視線を外した。
「比良? 君はいったい、何を思っているのかな?」
そんな僕に、紅さんは撫でるような優しい声音で尋ねてくる。
だけど言えない。
紅さんの身体にもっともたれていたいとか、そんなことは言えない。
だから僕は、「なんでもないです」と答えるしかなかった。
それなのに……。
「比良?」
紅さんは、そんな僕の気持ちさえも察しているかのようだ。
懲りずに何度も尋ねてくる。紅さんはきっと僕が答えるまでずっとこのまま、こうしているつもりだろう。
そう思ったから、僕はゆっくり思ったことを話しはじめた。
「もう少し……」
ともだちにシェアしよう!