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優しいひと。(7)
「……っん」
いったい何回、口移しをしてくれたんだろう。
紅さんの優しい唇の感触と薔薇の匂いで頭がクラクラする……。
「比良は美しいね」
「ん、あ……」
そっと近づく唇に、また水を運んでくれたのかと思って僕は口を開ける。
そうしたら……。
湿り気を帯びた、柔らかい何かが口内をなぞった……。
「ん……ふぅ……ぁ」
コレ……なに?
僕の頭は麻痺しすぎて、何が起こっているのかさえもわからない。
背中がゾクゾクする。
僕の口の中にある湿り気を帯びたソレは這いまわると、舌に絡みつく。
「ん……ふぁ……」
それはまるで僕の舌の形状を確かめているみたいだ。そして紅さんの唇が、僕の舌を食む。
「わたしの美しい比良――」
「……っんぅ……」
とても優しくて、みぞおちに響く声。
それを最後に、僕の思考が――落ちたんだ。
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