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悪夢。(1)
――暗くて深い、闇が広がる。漆黒が続く世界で、僕はひたすら走り続けていた。
心臓は何度も大きく鼓動している。息は乱れ、口の中は恐怖でカラカラに乾ききっている。それなのに、いったいどこに水分があるのだろう。こめかみからはジットリとした汗が頬から鎖骨へと流れていく……。
ねっとりとした汗が気持ち悪い。
漆黒の空間は気持ちが悪いほど無風で、蒸し暑い。
できるなら、もう走りたくない。足は棒のようになっているし、心臓も破裂しそうなくらい苦しい。
――だけど、止まることはできない。
止まれば最後、追いかけてくる、『ソレ』に捕まってしまう。
今だって僕のすぐ背後では思いものを引きずるような音が近づいてきている。
音がした方向に耳を傾けた次の瞬間、走る足が絡まってしまった。
地面に直撃するのを防ごうとしたけれど、僕の腕は身体を支えるだけの力は無く、顔面から勢いよく突っ込んだ。鈍い痛みが僕を襲う。それと同時だった。
倒れた僕の足首を……後ろから追いかけてきた、『ソレ』が掴んだんだ。
僕の足首を掴むねっとりとした手の感触が恐ろしく気持ち悪い。
「くひひ、おいついた……」
震える低い声で『ソレ』が言うと、僕の身体は下へ、下へと引きずられていく。
ズリ、ズリ……。
身体が砂利の上を滑る音が僕を恐怖に駆り立てていく。
「やっ、いや……!!」
(誰か、助けて!!)
手を伸ばし、助けを求める。けれど周囲に広がるのは深い闇。
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