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悪夢。(2)

 ズリ、ズリ……。  ズリ、ズリ……。  僕は手を伸ばしたまま、抵抗もできず、下へ、下へと引きずられていく。  引きずられる果ては虚無。  そこは永遠に続く恐怖と死の世界だっていうことは何となく理解できた。  怖い。あんな深い闇に堕ちたくはない。  だけど僕の身体は抵抗もできないまま、とても強い力で引きずられてい――……。 (誰か! 誰か、助けてっ!!)  もう一度、心の中で助けを求めたその直後だった。 「ぎゃあああああっ!!」  僕の足を掴んでいた、『ソレ』が、断末魔のような、悲鳴を上げた。  そうかと思ったら、僕の身体がふいに軽くなった。  掴まれていた足首も解放される。  すると僕の足首にふんわりとした毛のようなものが当たった。 「っひぃぃ……」 (今度は何? 僕をどうするつもり?)  怖くて……怖くて…………。  身体は金縛りにあったみたいに、動くこともできない。  その間にも、足元にあったものは、ゆっくりと這(は)い上がってくる。  ……怖い。  目を閉じても無駄だっていうことは知っている。  それでも、『ソレ』から逃げることだけをただひたすら願い、僕は目をつむった。やがて、やって来るだろう朝を待って……。  そうやって我慢している間にも胸あたりにまでやって来た。  閉じた目の中に、黒い影が映る。 (ダメ、意識をそこに持っていっちゃいけない)  意識を集中すれば(まぶた)の裏に姿を(とら)えてしまう。だから僕は必死に意識を逸(そ)らし、息を詰める。  そんな僕の様子をあざ笑っているんだろう。黒い影がとうとう僕の目の前にやって来た。  そして……。

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