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戸惑い。(1)
閉じた瞼 から、明るい、真っ白な光が現れる。
今日も朝が――きたんだ。
いつもなら、朝になっても脱力感と嫌悪感しかないのに、今は違った。常に心は荒れていて、すごく息苦しい。だけど今日はとても穏やかで、心地いい。
もしかしてこれが、『幸せ』というものだろうか。
まるで、あたたかな暖炉の前にいるような、そんな気持ち。
胸の奥がぎゅっとなって苦しいのに、それでいて疲労感はない。悲しくも辛くもないのに目頭が熱くなる。
僕は潤む目をそっと開けた。
そうしたら……。
綺麗な赤茶色の目が間近にあったんだ。その目は僕を写していた。
「……っつ!! く、紅 さんっ!?」
「おはよう、比良 。良く眠れた?」
紅さんも僕と同じで寝起きのはずなのに、とても爽やかだ。まるでこの朝の日差しみたい。キラキラ輝いているんだ。
「あ、あの……えっと……あの……」
綺麗な笑顔を見せる紅さんに、自分の寝顔をずっと見られていたのかと思うとパニックになる。
身体は怖い体験もしていないのに、硬直してしまう。
紅さんはそんな僕の胸の内を知ってか知らずか、口角を上げてニコニコ微笑んだままだ。
目の前にいる綺麗な男性に、僕の胸はトクンと高鳴る。
(どうしよう。挙動不審になるの何とかしないと、おかしなヤツだって思われちゃうっ!!)
焦る僕は額からおかしな汗を吹き出す。その汗を拭おうと手を動かせば……。
夢の中で狐を抱いていた僕の手……。それはあろうことか、紅さんの背中にまわっていた。
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