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戸惑い。(2)

(えっ、なんで?)  夢の中では狐だと思って抱いていたけれど、現実では紅さんを抱きしめていたの!? 「ご、ごめんなさいっ、あの!! ぼく……」 (――ああ、僕ってば何をやっているんだろう)  昨日出会ったばかりの人を抱きしめるとか。  しかもベッドの上で!! (……もうイヤだ) (恥ずかしい) (穴があったら、入りたい) 「ふぇ…………」  自分があまりにも情けなさすぎて、涙が(あふ)れてきた。  口はへの字になるし、目の前にいる紅さんの綺麗な顔が、ぐにゃって歪んでいく……。 「ごめんなさっ……」  本当に最悪だ……。  紅さんは優しいから何も言わない。  でも僕は容姿も何もかもが穢らわしい存在だ。  朝っぱらから一体誰がこんな汚い僕に抱きしめられたいって思うだろう。 「比良? なぜ、泣くのかな?」  紅さんはやっぱり優しい。  朝っぱらから鬱陶(うっとう)しく泣く僕を、そうやって気にかけてくれる。  気遣ってくれるほど、僕はそんな、いい人間じゃないのに……。  生きていたって、どうせ、みんなに迷惑をかけてしまうだけなのに……。  僕の喉に、悲しい気持ちがたくさん詰まった。  紅さんの問いかけに返事もできなくって、首を左右に振った。 「怖い夢でも見た?」  ……どうして。  この人はそんなに優しいんだろう。  僕はまた、ブンブン頭を振って、怖い夢なんか見ていないと否定する。  怖い夢は、本当に見ていない。  そりゃね、はじめは怖かった。

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