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戸惑い。(4)

 さっきまで何が悲しくて泣いていたのかとか、それさえも忘れてしまうような強い薔薇の香り……。 「……くれないさん……」 「比良、雨の甘い香りといい……。なぜ君は、わたしを魅了していくのだろうか……」 「んっ、ひゃん……」  僕の耳元で、そっと(ささや)かれ、紅さんの甘い吐息が耳孔に入る。  おかげでヘンな声を出してしまう。 「比良…………」  僕の背中にあった片方の腕がゆっくりと上がってきて……うなじを撫でた。 「っん……ふっ……」  まるで愛でも告げられているような仕草に、胸の奥がぎゅうっと苦しくなるし、みぞおちが疼く。  紅さんの親指が僕のうなじで円を描き、クリクリと撫でる。 「ん……ぁ……」 (こそばゆい)  紅さんの背中にまわした腕に、力が入った。 (とてもあたたかい)  それなのに、落ち着かない。  辛くないのに、胸が締めつけられて苦しい。  だけど……とても心地いい。  まるで、僕を全部受け止めてくれているような錯覚に陥ってしまう。 「比良、何か飲もうか……」  いったいどれくらい、そうやっていただろう。  今まで、僕を抱きしめてくれていた紅さんが、動いた。  紅さんの視線が上にあるのを感じ、僕も視線をたどって、同じ方向を見れば、白い目覚まし時計が午前10時を指していた。  そうしたら、目覚まし時計を見るなり僕のお腹がぎゅるるって、鳴った。 「……っつぅ……」 (……恥ずかしい)  あまりの恥ずかしさに(うつむ)いたら、紅さんが微笑むような、そんな息を耳に感じた。

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