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戸惑い。(6)
すると、僕、ヘンなんだ……。
昨日までは見ず知らずの人だったのに、少し優しくしてくれただけで、もう紅さんと離れるのがイヤだと思っている。
僕の身の上をよく知っている、倉橋 さんでも遠慮してしまって、こうはならないのに……。
紅さんがとても綺麗だからだろうか。
だから僕は、こんなに紅さんに執着してしまうのだろうか。
でも……それだけじゃないような気がする。
この薔薇の匂いを嗅いでいると、ずっとこの匂いを待っていたような、どこか懐かしい……そんな気さえもしてくるんだ。
いったい、どうしてしまったんだろう。
それに……。
この匂いが、僕の頭をボーっとさせる。
気持ちよくて、それでいて、お腹の底が熱くなる。
「んっ…………」
頬をベッドのシーツに擦り合わせ、紅さんの香りを嗅ぐと、またヘンな声が出てしまう。
……ガチャッ。
紅さんの薔薇の匂いに憑りつかれたみたいに残り香を吸っていると、突然、ドアが開く音がした。
僕は慌ててシーツにうずめていた顔を引き剥 がした。
「ごめんね、待たせてしまったね」
紅さんはそう言うと、慌てて身体を起こした僕の隣に跪 いた。
(……恥ずかしい)
紅さんの残り香を嗅いでボーっとするなんて。
僕ってばものすごく変態だ。
イケないことをしていた気分だ。
恥ずかしくて真っ直ぐ、紅さんの顔を見ることができない。
「比良?」
俯いてベッドの端っこを見ていると、紅さんが僕の顔色を窺 ってくる。
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