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戸惑い。(8)

 喉の奥に飲み物が行き届いたのと同時に、紅さんの唇が離れ……。  コクン。  僕は喉を上下に動かし、そっと、胃の中に送り込む。 「どう? 比良の好みの味かな?」  昨日もこうやって飲ませてくれたけど、やっぱり口移しには慣れない。  恥ずかしい。  だけど紅さんの好意を、『ただ恥ずかしいから』っていうだけで言葉を詰まらせるのは失礼なことだ。 (顔、赤くなってないかな)  そんなことを気にしながら、喉を通った飲み物の味をたしかめる。 (味……えっと、味……)  必死になって、どんな味かをたしかめる僕に、無言でジッと感想を待つ紅さん。 (……恥ずかしい)  だけど、そう思うのは僕だけで、紅さんはただ真摯(しんし)に、僕の身体のことを気にしてくれてくれているんだ。  そう思うと、ちょっぴり悲しくなる。 「……美味しいです。飲みやすくって……僕、酸味がある甘い味が好きで……」  僕なんて生きていても他人を不幸にするばかりの存在だ。  それなのに、僕を気遣ってくれる紅さんの優しさが嬉しい。  僕が微笑むと、紅さんはコクリと(うなず)いた。 「良かった。レモン汁とリンゴをミキサーにかけてみたんだ」  とても嬉しそうに微笑んでくれるから、僕も嬉しくなって恥ずかしいのも忘れて紅さんに笑い返した。 「あの、それで、さっきの『わたしの腕が試される』っていうのは何ですか?」  その一言がちょっと気になって尋ねてみたら、紅さんは、「ああ」とひとつ返事をしてから教えてくれた。

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