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戸惑い。(11)

 僕が紅さんの舌から逃げようとすると舌が追いかけてくる。  クチュリと水音がする。  そして、紅さんの唇に僕の舌が包まれ、吸われた。 「んっふ……」 「何も考えなくていい。わたしだけを感じなさい」  紅さんは静かにそう言った。  ようやく僕の口が解放される。  そう思ったら……。  ……ポスン。  僕はベッドに倒されてしまった。  一度は離れたと思った紅さんが上から被さってくる。  そしてもう一度――。 「……んぅ……」  口角を変えられて、唇が重なった。  同時に僕の口内に舌が入り込む。  舌をなぞって歯列を通り、上顎へ。そして下顎へと、僕の口内を舐められる。  クチュ、クチュ。  そのたびに、水音が生まれる。 「……っん、っふ……」  紅さんとの深い口づけが僕の頭を真っ白にしていく……。  鼻から、おもいきり息を吸い込めば、薔薇の匂いが僕の感覚のすべてを奪ってくる。 「ん……っふぅ……んっ」  もう何が起こっているのかさえもわからない。  僕は手を伸ばし、紅さんの裾を強く握った。  意識がまた……途切れていくんだ……。  ――その日から、僕の孤独な日常は消え失せ、明るい日差しの中にいるような以前では考えられないほどの穏やかな毎日を送れるようになった。  夢の中では、銀色の綺麗な狐と一緒。  現実世界では、綺麗な紅さんと一緒に生活をしていた。  おかげで僕の体力も少しずつ回復している。ひとりで飲み物も飲めるようにはなった……と、思う。 『ひとりで飲めるようになったと思う』っていうあやふやな言葉になるのは、紅さんが僕ひとりで飲ませてはくれないからだ。

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