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ふたりの訪問者。(8)

 僕の脳裏にみんなからずっと言われ続けてきた悲しい言葉が過ぎる。  重い沈黙が、部屋を包む。  ――ああ、僕がいる所為でここにいるみんなを不快にしてしまった。  やっぱり僕はここにいるべきじゃないんだ……。  自己嫌悪に(さいな)まれ、(うつむ)いたまま、ぎゅっと拳を握りしめる。 「だああああっ!! もう、お前来い!!」  今まで黙々とホットケーキを食べていた古都くんは、痺(しび)れを切らしたかのように立ち上がった。 「えっ?」  グイッ。  顔を俯け、手にしていた服に皺が残るくらい強く握りしめていると、古都くんにその手を取られた。  えっ?  えっ?  僕の腰がソファーから離れる。  突然伸びてきた手に誘われてリビングを抜ける。  階段を上って寝室へ引きずられるようにして導かれた。  バタンッ。  ドアが閉まる大きな音とほぼ同時に、古都くんは僕の腕の中にあった服を一着抜き取った。 「ウジウジすんなよな。オレが選んだんだ!! ツベコベ言わずに着ろ!!」  古都くんの手が悲しみで固まった僕の身体を包んでいた着物を取り外しにかかる。 「ちょっ、あの、古都くんっ!?」  挙動不審になっていると、帯が外れ、着物を脱がされ……。  僕の身体にはさっき鏡さんから受け取った服が着せられた。 「ほら、やっぱお前コレ似合う!!」  古都くんはウンウンと何度も頷いてからクローゼットに貼り付いている鏡を僕に向けた。  鏡に写った僕は……。  古都くんの白い着物を着た姿じゃなくって、白のパーカーと灰色のハーフパンツを身にまとった、いつもの僕じゃない姿があった。

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