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ふたりの訪問者。(9)
パーカーの袖や裾の部分には黒のレースがあしらわれている。胸元の部分には黒い紐が交差されていて、リボン結びにしてある。
そのリボンは縦結びだ。
その縦結びのリボンがまた、いつもみたいな見窄(みすぼ)らしい僕の姿と違ってとても可愛らしい。
「……あはは」
気が付けば、声を出して笑っている僕がいた。
「さ、いこうぜ!!」
グイッ。
「あ、へっ?」
古都くんは鏡の前で笑っている僕の手を引いて、今度はリビングへと下りる。
「紅兄ちゃん、ちょうどいい感じだ」
古都くんは紅さんが座っているソファーの前まで僕を引っ張る。
「さすが古都、見立ても素晴らしい。とてもよく似合っているよ比良、美しい……」
『美しい』なんて、そんなことはない。
だけどそう言われるとむず痒(がゆ)くって立ち竦んでしまう。
そうしたら、紅さんの腕が伸びてきた。
……ぽふん。
気がつけば、僕の身体は背中からすっぽりと紅さんに包まれていた。
……あたたかい。
「あ、あのっ!! 僕なんてお礼を言ったらいいか……」
見上げれば……。
「比良、何も気にする必要などないよ。わたしは君がとても好きなんだ」
……好き。
紅さんの告げられたその言葉に、僕の胸が震えた。
「く、れないさ……」
「大丈夫、君は汚れなき天使のように美しい」
僕の耳に紅さんの唇がくっついている。息遣いと一緒に耳孔に入ってくる。
やがて身体じゅうがあたたかい言葉でいっぱいになると、瞼が熱くなった。
「……ふ……うう」
そして、また……。
紅さんの腕の中で、泣いてしまうんだ。
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