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気づいた恋心。(7)
それどころか、さっきよりも強い力で包まれてしまった。
――ダメ。
僕は汚い。
優しい腕で抱きしめたら……貴方が穢 れてしまう……。
「比良? 首を振るだけでは、何もわからないよ? 何があったのか教えて?」
僕を抱きしめる力は、一向に緩める気配がない。
離してほしい。
そう思う反面、こうやってずっと抱きしめていてほしいって願ってしまう。
だから……。
「少し……追いかけられる夢を見て……」
嘘をついた。
生まれて初めての、嘘。
醜くて、汚らわしい嘘。
紅さんに嫌われたくないからっていう、それだけの理由の嘘を――。
僕は、ついたんだ。
たったそれだけのことで嘘をつくなんて……。
なんて醜い化け物だろう。
『僕を好きになって』なんて、おこがましいことは思わない。
ただ、紅さんの傍にいたい。
報われなくてもいい。
この結末は想像がつくから……。
だったら、今まで通り何もなかったようにふるまえばいい。
神様、僕は化け物だけど……少しくらいなら……。
今だけでいいんです。
少しだけ、夢を……いい夢をみさせてください。
僕は、紅さんの背中に腕を回して神様にお願いをした。
やがてやって来るだろう、絶望から逃れるために……。
気づいた恋心。・完
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