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はじめてのデートとさようならと……。(3)
「比良、入るよ?」
迷っていると、痺 れを切らした紅さんが部屋の中に入って来ちゃった。
「比良……とても美しいね」
部屋に入って来るなり、お世辞を言う紅さん。
こうやって、『汚くなんてないよ』って僕に教えてくれているんだ。
でもね、紅さん。
僕は本当に汚い化け物なんだよ?
紅さんは優しいから僕の汚い部分を見ていないだけ――。
それだけだ。
紅さんのお世辞を否定しても、紅さんは違うと言って譲らないから、僕は微笑むしかない。
僕を否定しない優しい人――。
「比良、おいで。髪を梳 いてあげよう」
紅さんは手招きすると、クローゼットからブラシを取り出し、僕をベッドの上に座らせた。
灰色の髪の毛を梳かしてくれる、ブラシの感触がとても気持ちいい。
思わずうっとりと目を閉じてしまう。
「後ろで三つ編みにしてみようか……。リボンも可愛いかもしれない」
あっという間に僕の灰色のみすぼらしい髪の毛は、綺麗な三つ編みにされた。
その先には水色の綺麗な紐がリボン結びでちょこんと乗っている。
たったそれだけのこと。
それなのに、なんだか自分じゃないみたいだ……。
「美しいよ、比良……。思わず口づけてしまいたくなるくらい……」
窄(すぼ)まった紅さんの目の中に戸惑う僕の姿が写る。
バクバク、バクバク。
僕の心臓が煩 い。
紅さんの手の中には、三つ編みにされた僕の髪の毛。
僕の髪が紅さんの唇に運ばれてしまった。
体温のない髪の毛にされた口づけ。
それなのに、どうしたんだろう。
髪の毛から伝染して、身体中が熱くなる。
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