117 / 253

大好きな貴方と。(2)

「だっ、大丈夫です!!」  紅さんに繋がれた手からじんわり汗が出てしまうのは、大好きな人に見つめられているからだ。  心臓がドキドキして、緊張する……。  恥ずかしくって……。  苦しくって……。  でも、それだけじゃなくって……。  紅さんの傍にいることがとても嬉しい。 「上映時間は4時だから、どこか休める場所に行こうか。3時前だけど、お腹は空いた? 何か食べられそう?」  ドクン、ドクン。  ドクン、ドクン。  僕の心臓は身体から飛び出るんじゃないかっていうくらい、ものすごい速度で鼓動し続けている。  何も言えなくってコクコクと(うなず)くと、紅さんはひとつ微笑んで、さりげなく僕の歩幅と合わせてくれる。  こういうところ、すごく好き。  胸が苦しいのに、あたたかい。  キュンってするの。  紅さん、僕ね。  好きなの。  貴方が好きなんだよ?    ダメだな~。  紅さんとお別れするって決めたのに、こういう時になってまた、『好き』を発見してしまう。  それくらい、紅さんは優しくて、とても格好いい人なんだ。  カラン、コロン。  そこは、一角にある小さな喫茶店。  鳥の木彫りが飾ってある可愛らしいデザインをした茶色いドアを開けると、暖かみのある鈴の音が紅さんと僕を出迎えてくれた。  オレンジ色の照明で照らされた店内はモダンで大人な雰囲気だ。  なんだか隠れ家みたいな小さなお店。外はたくさんの人がいるのに、中にいるお客さんは数人しかいない。  店内は静かで、生前、父が好んで聴いていたヘンデル作曲のクラシックが流れていた。  さっきの喧噪(けんそう)が嘘のようだ。

ともだちにシェアしよう!