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大好きな貴方と。(3)
ウェイターさんに案内されてずっと奥へと進み、席に座る。
メニューを手渡されたけれど、何を頼めばいいのかわからない。
しばらくの間、僕はメニューとにらめっこ。
そんなまどろっこしい僕を、紅さんは焦らすことなくジッと待っていてくれる。
沈黙が続いているのに、心地いい。
穏やかであたたかい時間。
大好きな人と一緒にいられる幸せを噛み締める。
嬉しくって、ついつい口元をほころばせてしまう。
自然に笑みがこぼれた。
「比良は美しいね」
「っな!」
ここは紅さんの家じゃない。
それなのに、外でも僕を褒めるのはとてもおかしい。
紅さんはとっても無自覚な人だ。
恥ずかしい。
僕は肩を縮めてメニューで顔を隠す。
だけどやっぱり目の前にいる紅さんが気になっちゃう。
メニュー越しからチラリと覗けば……。
案の定、僕の視線に気づいた紅さんがにっこりと微笑んだ。
「……っつ!!」
恥ずかしいのに、それが心地いい。
僕は慌てて紅さんから視線を外し、メニューに食らいついた。
それでようやくサンドイッチとコーヒーをお願いすることにした。
今までなら口にすることができなかった食べもの。
それがスイスイ口に運べるようになったのも、食べ物がこんなにおいしいって思えたのも、ぜんぶ、紅さんのおかげ……。
(……本当にありがとうございます。)
胸の内で感謝をしながら、注文したサンドイッチをかじって口の中でモゴモゴ動かす。
すると紅さんの唸り声を聞いた。
紅さんはフォークにミートソースのスパゲッティーを絡め、ひと口食べる。まだスパゲッティーが残っているのに、お皿の上にフォークを置いた。
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