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大好きな貴方と。(4)

「?」  どうしたんだろう?  サンドイッチをほおばる手を止めて、首を傾げる。  僕と視線が交わった後、紅さんは苦笑いを漏らした。 「ここの料理も美味しいとは思うんだけれどね……」 「――?」  どこか不服そうにしている紅さん。  何かおかしなところでもあったんだろうか?  ゆっくり、噛みしめるように言う紅さんに、僕は黙って耳を傾ける。 「比良が作ってくれる美味しいご飯が食べたくなるね」 「……っつ!!」  すごい不意打ち。  おかげで心臓がドクンと鼓動した。  顔はとても熱いから、たぶん真っ赤になっていると思う。  ひどい。  紅さんはとてもひどい。  目を細めて優しく微笑まれると、もっと傍にいたいって思ってしまう。  ダメなのに……。  それじゃあダメ……なんだよ。  今日でさようならをするっていう、やっと決意した気持ち。  それが紅さんのひと言で簡単に崩れ落ちてしまう。  でも、ダメだ。  僕は自分に言い聞かせ、への字になりそうな口角をなんとかして上げた。 「ありがとうございます」  出てくる涙を引っ込めて、にっこり笑い返す。  僕はもう紅さんにご飯を作ってあげることはできないけれど、紅さんならきっと素敵な女性がご飯を作ってくれる。  僕よりも、うんと美味しいお料理で紅さんのお腹を満たしてくれるだろう。  そうして結婚して、幸せな家庭を築くんだ。  僕じゃない。  汚い僕じゃ、綺麗な紅さんの傍にはいられない。  だから……。  バイバイ、しなきゃ。  崩れそうになる表情をなんとか(こら)え、僕は笑顔をつくり続けた。  大好きな貴方と。・完

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