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さようなら。(1)
喫茶店を出てお腹を満たした紅 さんと僕は、大きくて長細い真っ黒なビルの中にある映画館に入った。
映画館ってやっぱりとても広いんだ。
館内は何ホールにも分かれていて、上映されるものがそれぞれ違うんだって。
今日、紅さんと一緒に観る映画は純愛ものらしい。
紅さんってロマンチストなんだ。
最後の最後に新発見しちゃった。
映画館はいったい畳何畳分なんだろう。
とにかくとても大きい。
たくさんの椅子が並んでいて、番号が振ってある。
チケットに書いてある番号と椅子を照らし合わせると、ちょうど真ん中あたりで見やすそう。
目の前にあるとても大きなスクリーンは大迫力だ。
ここでアクション映画なんて観たらきっととても迫力があるんだろうな……。
そこで僕の頭に過ったのは、つい最近知り合った僕と同い年くらいの古都 くんの顔。
彼ならとても喜びそう。
古都くんと一緒にアクション映画を見た時のリアクションなんかを想像すると、思わず笑みがこぼれてしまう。
「比良 ? 何を考えてるの?」
「あ、ごめんなさい。古都くんと、鏡 さんと一緒にこういうところに来ても、きっと楽しいだろうなって……」
有り得ないことだと気がついたのは、言った直後だった。
だって古都くんとはもう会わない……。
それは紅さんと一緒に出掛けて有頂天になっていた証拠だ。
これ以上の幸せなんか望んじゃいけない。
今日で終わるんだから。
僕はそっと首を振る。
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