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さようなら。(2)

「もちろん、わたしも一緒だよね」  頭打ちをしている僕に向かって、紅さんがニッコリと微笑んできた。  胸が、きゅって苦しくなる。  それはまるで、これからもずっと一緒だって言われたみたいだったから――。  ――ううん。  もう終わりだよ。  紅さんとはお別れなんだ。  けっして言えない言葉を、僕はグッと飲み込んで微笑み返す。  すると、その時を待っていたかのように、大きなブザー音と注意を促す、女性のアナウンスが館内に流れた。  明るかった館内は少しずつ照明が落とされ、暗くなっていく……。  やがて大きなスクリーンには、映像が映し出された。  正直、スクリーンは見ていない。  だって、だってね……。  紅さんの顔をもっと見ていたいって思ったんだ。  だからこっそり綺麗な横顔を見つめていた。  そうしたら……。  バッチリ目が合っちゃった。 (「予告の今の内に何か飲み物でも買って来よう。何がいい?」)  紅さんは、ひとつ微笑んで、肘掛けに置いている僕の手を撫でた。 (「ありがとうございます。なんでも……いいです」)  ずっと紅さんの横顔を見ていたって知られてしまったかな。  とても恥ずかしくって、言葉がしどろもどろになってしまう。  (うつむ)きながらそう言うと、紅さんの頷(うなず)く気配がした。  紅さんの大きな手で撫でられた僕の手の甲が熱を持ちはじめている。  その熱は、紅さんに触れられた手からはじまり、やがて僕の身体を簡単に包みこんでしまう。 (「待っていてね」)  紅さんはそう言うと、椅子から腰を上げた。

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