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さようなら。(3)
同時に、僕の手の甲にあった熱も消えていく……。
去って行く紅さんの背中をジッと見つめていた、その時だった。
いなくなるなら今しかないって……そう思ったんだ。
この場所は、僕が育った山奥とは違う。
だけど紅さんと離れるなら、結局どこだって変わらない。
どうせ、僕は苦しみながら生きていくんだから……。
(「さようなら。今まで……ありがとうございました」)
ひとり、そっと呟いて僕も席から立ち上がる。
ゆっくり階段を歩き、両びらきになっている重たいドアを静かにひらくと、すぐに駆け足で館内を出た。
外は、もうすっかり暗くなっていて、道を歩く人たちは足早に家路へと帰っていく。
そんなだから、僕は行き来する人とぶつかってそのたびに謝りながら走り続ける。
……早く。
早くここから出なきゃ。
少しでも遠くに行かなきゃ!!
きっと優しい紅さんは、僕がいなくなったことを知って探し回ってくれるだろうから……。
走り続けているおかげで、心臓が破裂しそうなくらい悲鳴を上げる。
だけど、足を止めちゃダメ。
立ち止まっちゃ、ダメなんだ!!
走って……走って……。
切れる息も無視して、ひたすら足を動かし続ける。
だけど、もう限界。
僕の身体は、とうとう根を上げた。
ふたつの足は絡み合い、コケそうになってやっと立ち止まる。
「……はあ……はあ」
乱れた息とバクバク煩 い心臓の音だけが妙に大きく聞こえた。
そこへ来て、初めて周りを見渡せば……。
ここは裏路地みたいな場所だった。
人気は無く、小さなブランコひとつだけがあるもの悲しい雰囲気の、公園――。
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