130 / 253

さようなら。(11)

 なぜだかわからないけれど、怖いと思った。  僕は、少し前まで自分が着ていたブラウスだった布を両手から解こうと、必死に抵抗する。  ……怖い。  なぜかわからないけれど、ここから逃げなきゃ!!  今までにないくらいの恐怖心だけが、僕を動かす。  この予感は今までずっと経験してきたもの……。それは僕自身が僕を守るために(つちか)ったものだった。  予感が的中したと知ったのは、そのあとすぐのことだ。 「俺たち……? ……だけの……モノだろうが……」  それは、僕の下半身にいた男の人から聞こえた。とても低い声はまるで、地獄の底から発せられたようだ。  ふいに、僕の身体が軽くなる。  それは僕の両胸にあった男の人たちがいなくなったことを意味していた。  何かに押し潰されたような大きな音と、苦しそうに呻く声が聞こえたと思ったら、また沈黙が戻った。 (いったい、何が起こったの?)  目をこじ開けると……。  僕に覆い被さっている男の人が……ニンマリと口角を上げて笑っていた。  なぜだかはわからないけれど、暗がりでも男の人の顔をはっきりと見ることができた。  いくつもの皺が入ったデコボコした顔。  血走った眼と長い舌は、血のように真っ赤だ。  それに……口にはダラリと唾液が垂れ流しになっていた。  男の人の声からして、年齢は大学生くらいだと思っていたのに、姿を見ると老人のようにも見える。  その顔は、この世のモノとは思えないほど(おぞ)ましい。  これは……。 「邪魔なんだよ、お前ら……クヒヒ。俺のモノだ。コイツは俺のモノだ!! お前の魂も、身体も……全部、俺のモノだ……」

ともだちにシェアしよう!