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彼が優しい理由。(6)
僕は両手で耳を覆って、対峙しているふたりを見つめる。すると目の前にいた男の人のが消え、大人3人分くらいの巨大な身体をした蜘蛛の姿があった。
漆黒の身体には6個の大きな目があり、公園全体を写し出している。
巨体から生えた無数の、触手のような長い足が地面を這う。身体の側面には、蠢 く襞 のようなものが見える。そこから数本の細い糸がはみ出していた。
「さあ、楽しもうか……」
巨大な蜘蛛は身体に貼りついている6個の目を細めると、襞のようなところからはみ出ていた白い糸を勢いよく四方八方にまき散らした。
蜘蛛の糸は束になり、周りにある木々やブランコに巻きついて、あっという間に僕たちを囲んだ。
「これでお前は逃げられない……」
大蜘蛛はケタケタと下卑 た笑い声を放つ。
大蜘蛛の身体に貼り付いている6個の妖しく光る目が紅さんを捉えた。
同時に公園内に張り巡らされた糸が紅さんの背後を狙う。
紅さんは背後からの攻撃に気づいていないみたいだ。
蜘蛛の様子を窺 っているまま、動かない。
(紅さんがやられちゃう!!)
「紅さんっ、後ろ!!」
僕の呼びかけに気がついた紅さんは、すぐに振り返ってくれた。だけどそれは遅くて、両足首を絡め取られた。
ひとつの糸の束が足首を拘束すると、張り巡らされている無数の糸も身動きできないよう、両腕ごと身体を拘束する。
ギシギシと骨の軋む音と、噛みしめた歯の隙間から、苦痛の声が漏れる。
「紅さんっ!! いやっ」
イヤだ……。
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