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彼が優しい理由。(7)

(紅さんが殺される!!)  紅さんが――好きな人が、苦しめられる姿なんて見たくない。  僕はどうなったっていい。  だけど……だけど、紅さんは……。  紅さんが何者でもかまわない。  優しい人には変わりないし、僕が好きになったのは外見じゃなくて、中身だから……。  たとえ紅さんが他の霊体たちと同じように僕の魂が目当てだったとしても、僕はそれでもかまわない。だって父さん以外で優しい言葉をかけてくれたのは、紅さんだけだったから――。 (助けなきゃ!!)  紅さんに巻き付いた蜘蛛の糸を解いてしまおうと、僕は地面から立ち上がり、一歩を踏み出した。  ――直後。  僕の両手首と両足首が、蜘蛛の糸に絡め取られてしまった。おかげで紅さんがせっかく着せてくれた上着は、はだけてしまった。  宙吊りになった僕の身体はすべてをさらけ出す。  だけど今はそんなことを気にしている場合じゃない。  今は紅さんを助けなきゃ!! 「紅さんっ!!」  僕は抵抗を諦めることなく、身体が宙に浮いたままの状態で自由を失った手足を動かし続ける。 「お前を助けた愚かな者が死んでいくのを見ていろ。そして絶望に駆られたお前の魂をいただこう……。ああ、さぞや美味いだろうな、お前の魂は……」  舌なめずりをするように、蜘蛛は今も糸を吐き続けている襞をグニャリと動かした。  その様子が気持ち悪い。  生理的な悪寒感と恐怖がない交ぜになって、僕の身体を凍らせる。 「やっ、離してっ!! やだっ! 紅さんっ!!」  蜘蛛の糸に抵抗するものの、やっぱり僕の力じゃ振りほどくことができない。

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