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彼が優しい理由。(8)

 こうやってジタバタしている今だって、紅さんの身体に巻きついた無数の蜘蛛の糸は容赦(ようしゃ)なく締め上げている。  紅さんとは数メートルほど離れているにも関わらず、僕の耳にはミシミシと骨の軋む音が聞こえてくる……。  それだけ、蜘蛛の糸が力いっぱい紅さんを締め上げているんだ。 「いやぁ!! やめて、紅さんが死んでしまうっ! 紅さんっ、紅さんっ!!」  僕の目からは、またぽたぽたと涙が流れ、苦しむ紅さんの姿が歪む。 「泣き叫ぶ声もいいが……もっと違う鳴き方も聞きたいな……」  蜘蛛はそう言うと、襞から一束の糸を吐き出した。  その糸は、僕の腰に巻きつき、宙吊り状態の僕を仰向けで固定する。  両手は後ろへ、両足は開脚の状態で――まるで蜘蛛への捧げ物のように、配置された。 「良い眺めだねぇ~、お前のすべてがよく見えるよ」  ……6個の目が、ニタリと笑う。  襞からはまた新たに糸が吐き出されてあらわになっている、僕の一物へと向かってやってくる。 「い……や……」  何をされるのか理解した僕は、身体を捩(よじ)ってなんとか糸から逃れようとした。だけどバネのように伸縮自在な糸は、僕ひとりの力では対抗できるはずもない。抵抗も虚しく、蜘蛛の糸は一物に巻きついた……。 「ぁ……いやぁあああっ!!」  蜘蛛の糸は締めつけたり、緩めたりを繰り返しはじめる。  こんな……好きな人の前でこんなこと……されたくない。  紅さんが苦しんでいるのに何もできず、こうやって羞恥に悶えるなんて……。

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