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彼が優しい理由。(3)

 どちらかというと、楽しそう?  そんな中、霊体に乗っ取られた男の人が動いた。  霊気を身にまといながら地面を()い、紅さんへと突き進む。  迎撃態勢に入った紅さんから生まれた霊気は周囲を包み、紅色の炎のようにチリチリと舞いはじめる。その炎は見惚(みと)れてしまうくらい、とても綺麗だ。まるで真紅色のルビーやオブシディアンの宝石みたいに、キラキラ輝いている。  紅さんの周囲から生まれたキラキラ輝く光は、地面を伝いながら、ものすごいスピードでやって来る男の人の霊気とぶつかり合う。  ふたつの霊気は目も開けていられないくらい、眩しい光を放つ。  ――でも……。  目を閉じることはできない。  だってその間に、紅さんが怪我をするかもしれないんだ。  僕は固唾(かたず)を飲んで、ふたりの行く末を見つめる。  霊体に意識を乗っ取られた男の人の霊気は範囲がとても大きい。直径1メートルはあると思う。  対する紅さんの霊力は、男の人に比べて身体を包むくらいの範囲しかない。  このままでは負けてしまう。  イヤな予感が僕の頭を駆け巡る。 「……っつ!!」  イヤだ。  僕を助けるために紅さんが死んじゃうなんて、そんなのイヤ!!  僕は自分の頭の中に生まれた悲しい思いを必死に打ち消すため、2、3回、頭をブンブン振って、紅さんの背中を見つめ続ける。  ……ギュッ。  紅さんが着せてくれた上着の襟元を掴む手に、力が入る。  ふたつの霊気が接触するたび、ものすごく明るい光が僕の目の中に飛び込んでくる。

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