134 / 253

彼が優しい理由。(2)

「比良、大丈夫だよ。色欲霊ごときが、わたしの比良を犯そうとは……身の程をわきまえさせてやろうね……」  紅さんはそう言うと、背中に回した僕の腕をそっと引き()がした。すると触れ合っていたあたたかい肌の感触は消え、恐怖という名の寒気が僕を襲う。 「あ……イヤ……」  僕は怖くて、あたたかな紅さんへと腕を伸ばす。だけど紅さんは僕を抱きしめてはくれない。その代わりに紅さんの唇が僕の額に乗った。  紅さんの口づけを受けた額に熱が宿る……。 「比良、少しだけ待っていてね」  紅さんはそう言うと、霊体と僕の間に立った。 「返せ……それは俺の魂だ……かえせぇぇぇ!!」  立ちはだかる紅さんに激怒する男の人が怒りをあらわにすると……。  ゆらり。  影が揺れた。  そうかと思えば、シルエットからは茶褐色の鈍い光を放ちはじめる。 「あの……光は……?」  今まであんな光は見たことがない。 「比良も見えるんだね。アレが霊気だよ。悪霊の怨念が具現化したものだ」  あんな恐ろしい気を放つ霊体と紅さんは戦うの?  もし、紅さんが傷ついたら……?  霊体に殺されでもしたら……?  それを考えると、不安で胃が潰されそうになる。  ゴクン。  唾を飲み込み、目の前に立ちはだかる紅さんの背中を見つめる。だけど紅さんから怖じ気づくような気配はまったく感じられない。  紅さんは背筋を伸ばし、迎撃態勢に入っているみたい。  僕からは背中しか見えないけれど、紅さんから恐怖は感じない――。  ……なんだろう。

ともだちにシェアしよう!