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彼が優しい理由。(2)
「比良、大丈夫だよ。色欲霊ごときが、わたしの比良を犯そうとは……身の程をわきまえさせてやろうね……」
紅さんはそう言うと、背中に回した僕の腕をそっと引き剥 がした。すると触れ合っていたあたたかい肌の感触は消え、恐怖という名の寒気が僕を襲う。
「あ……イヤ……」
僕は怖くて、あたたかな紅さんへと腕を伸ばす。だけど紅さんは僕を抱きしめてはくれない。その代わりに紅さんの唇が僕の額に乗った。
紅さんの口づけを受けた額に熱が宿る……。
「比良、少しだけ待っていてね」
紅さんはそう言うと、霊体と僕の間に立った。
「返せ……それは俺の魂だ……かえせぇぇぇ!!」
立ちはだかる紅さんに激怒する男の人が怒りをあらわにすると……。
ゆらり。
影が揺れた。
そうかと思えば、シルエットからは茶褐色の鈍い光を放ちはじめる。
「あの……光は……?」
今まであんな光は見たことがない。
「比良も見えるんだね。アレが霊気だよ。悪霊の怨念が具現化したものだ」
あんな恐ろしい気を放つ霊体と紅さんは戦うの?
もし、紅さんが傷ついたら……?
霊体に殺されでもしたら……?
それを考えると、不安で胃が潰されそうになる。
ゴクン。
唾を飲み込み、目の前に立ちはだかる紅さんの背中を見つめる。だけど紅さんから怖じ気づくような気配はまったく感じられない。
紅さんは背筋を伸ばし、迎撃態勢に入っているみたい。
僕からは背中しか見えないけれど、紅さんから恐怖は感じない――。
……なんだろう。
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