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彼が優しい理由。(4)
そんな中で、僕はある異変に気がついたんだ。
紅さんの身体にまとわりついている炎のような霊気……。
それは、ふんわりと……まるで布のように自由自在に動いているみたいで、うねりながら茶褐色の霊気ごと包みこもうとしているようにも見える。
そして、茶褐色の霊気を包んだところからチリチリと赤い炎が生まれ、茶褐色の霊気が消えていく……。
紅さんの炎のような霊気が、男の人の霊気を燃やしはじめたんだ。
(すごい)
そのことに気がついた男の人は後ろへ飛び、紅さんから距離を置いた。
男の人の唸り声は震えていて、さっきのような威勢は、どこにも見当たらない。
どこか焦っているようにも感じられる。
……強い。
中性的で、どちらかというと女性に近い雰囲気をしていたから、勝手に紅さんの器を決めつけてしまっていたんだ。
もしかしたら紅さんって、倉橋 さんよりもずっと強い霊力を持っているんじゃないかな……。
だからなのかな?
僕の状況を把握してくれて、苦しい気持ちを理解してくれたのって……。
紅さんも、もしかすると今の僕みたいに、霊体に悩まされた経験があるのだろうか。
僕と同じで、孤独な目に遭ったのかもしれない。
(紅さん……)
僕は襟元をギュッと掴み、自分の身体を隠すようにして首元で端と端をを合わせ、広い背中を見つめ続ける。
「貴様……人間ではないな。人外 か……?」
(――えっ?)
互いに様子を探りあっているように距離を保ち睨み合いが続く中、男の人の言葉が僕の全身を刃物のように貫いた。
『人間じゃない』
『人外』
その言葉が、僕の頭をグルグル回る。
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