147 / 253
彼が優しい理由。(15)
――もう、限界だった。
僕の所為で誰かが死ぬなんて、そんなことは耐えられなかった。
僕は唇を噛みしめ、小さく唸り声を上げる紅さんの傍に駆け寄る。
木に激突した、広い背中を支えた。
「紅さんっ、紅さんっ!!」
紅さんの唇の端からは、真っ赤な血液がひと筋流れていた。
いったい誰が綺麗な紅さんのこんな姿を想像できただろう。
「比良……危ないから、わたしから離れ……」
「イヤだっ!!」
(……もう、いい)
(もういいんだ)
「紅さん、僕の魂が欲しいなら、今あげるっ!!」
(だからもう、僕を巡って戦う必要なんてない!)
紅さんの言葉をさえぎって、僕は首を小さく横に振りながらそう言った。
「比良? 君はいったい何を……?」
「……もう、いいよ。いいんだ。僕はどうせいつかは死ぬ」
だったら、せめて好きな人の一部になれればそれでいい。
紅さんならきっと僕の魂をいい方向に使ってくれるってそう思うから……。
(貴方が好きだから……僕は何をされてもかまわない……)
(大好きだから――)
僕は紅さんに向けて微笑んだ。
「坊や、邪魔だな。人外のソイツもろとも消えちまえ!! 魂だけは拾ってやる」
「比良!!」
僕は目をつむり、紅さんに魂を奪われようと覚悟を決めたその時――。
「えっ?」
紅さんの伸ばされた腕で、僕の身体は宙に舞う。
突き飛ばされた僕の視界の端で、紅さんが木にもたれ、目を閉じている姿が見えた。
まるで……死を覚悟したかのような……そんな姿だ。
……うそ。
うそだ。
――紅さんが……。
(殺される!!)
ともだちにシェアしよう!