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彼が優しい理由。(16)
「紅さんっ!!」
身体が数メートルほど飛ばされる。
『べしゃり』と音を立て、地面に打ち付けられた。
「あうっ!!」
激痛が僕の身体を襲う。
地面に這いつくばっていた身体をゆっくり起こす。
「紅……さ、ん!?」
腰を上げて、さっき僕がいた場所を見ると、そこには――……。
ちょうど巨大な蜘蛛が紅さんへと圧し掛かかる場面だった。
大きな爆風と一緒に、砂埃が公園のすべてを覆う。
うそ……。
うそだ。
「ふっ……あははははは!! 人間を庇った愚かな人外を屠 ってやったわ!!」
蜘蛛の笑い声が僕の平衡 感覚を狂わせる。
うそ、そんなの。
いやだ。
「紅さんっ。いやあああああああああっ!!」
僕の目からは、大粒の涙がこぼれ落ちる。
もう、何も目にすることはできなかった。
「さて、お前の魂をいただこうか……」
僕の近くで、蜘蛛の声が聞こえた。
だから蜘蛛は僕のすぐ傍にいるんだと理解できる。
だけど……死ぬのはもう、怖くはない。
僕の胸を覆っているのは、紅さんを失ってしまったという悲しみ……ただ、それだけ……。
「なぁに、痛みはほんの一瞬だ。俺にたてついた、あの愚かな人外の元へ、すぐに送ってやるよ。おっと、魂をいただくから、結局は人外の傍にも逝けないか……」
恐ろしく頑丈な蜘蛛の身体を支えている触手の数十本あるうち、二本が僕の項垂れる身体を取り押さえる。
新たな一本の触手が、僕の魂が埋め込まれている、みぞおちへと狙いを定めた。
僕の全身に悪寒が走る。
「っ……」
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