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彼が優しい理由。(17)
身を切り裂く、醜い音が僕の耳を襲う。やがてやってくるだろう激痛に堪えるため、零れ落ちる涙を抱えたまま、強く目を閉じた。それとほぼ同時――。
大きな何かが崩れ落ちるような音が聞こた。
蜘蛛の鋭い触手が僕のお腹を貫いたという痛みは……やってこない。
えっ?
どういうこと?
閉ざした目を、そっと開けると、そこには――……。
「ばか……な」
黒い物体が、地面に倒れていた。
目の前で起こっていることが知りたくて、涙で溢れた目をごしごし拭 う。
視界に映ったのは蜘蛛の6個あるうちの、ひとつの目が緑色の血を流している姿――。
その上では、紅さんが立っていた……。
紅さんはたしかに、蜘蛛に踏みつぶされた。
それなのに、今、彼は蜘蛛の上に颯爽 と立っている。
「何故だ……俺はたしかに……」
蜘蛛が発するその声は荒く、かなりの致命傷を受けている。
対する紅さんは、蜘蛛に踏みつぶされたのに息も上がっていない。
彼は淡々とした口調で話していく……。
「光の屈折で蜃気楼をつくり出した。お前がわたしだと思い、踏みつぶしたのは、ただの木の破片だよ……」
光の……屈折?
(あ……)
「紅さんの霊気……。赤い宝石みたいな霊気が光の屈折をつくり出したの?」
それじゃあ、今まで蜘蛛の装甲に攻撃していた霊気は、この攻撃に繋げるための手段だったっていうこと……?
あらためて周りを見ると、周囲にはまだ光り輝く紅さんの霊気が、まるで火の粉のように散りばめられていた。
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