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彼が優しい理由。(14)
「御託はいい。さっさとはじめよう」
絶望する僕の頭上で、紅さんの冷たい声が響いた。
紅さんは僕に対して、間違いなく怒っている……。
ズキン。
胸が痛む。
悲しくて、苦しくて、涙が溢れ出る。
「さて、坊や。しっかり見ておきなよ? コイツが坊やの力で死んじまう姿を、な……」
(僕が……僕の所為 で紅さんが……)
「比良、後で話がある。これが終わっても逃げないで」
自己嫌悪で打ちひしがれている僕の耳元に紅さんは囁(ささや)くと立ち上がり、蜘蛛の方へと走り出した。
紅さんの右の拳には、また光り輝く霊気が込められている。
「何度やっても同じこと。俺の硬い装甲には、ヒビさえも入れることはできない」
蜘蛛は勝ち誇り、向かいくる紅さんの霊力がこもった拳を意図も容易く大きな身体で受け止めた。
双方の霊気がぶつかり合っているため、突風が吹き、僕の細すぎる見窄らしい身体が飛ばされそうになる。
それだけ、ふたつの霊気は桁違いに強いということだ。
僕は突風で目をつむりそうになる目をなんとかこじ開け、紅さんの姿を見る。
蜘蛛の装甲をなんとか破壊しようとしている紅さん。そんな紅さんのお腹に、無数にある蜘蛛の触手、一本が……触れた。
それは、僕からは少し当たったくらいにしか見えなかった。だけど触手に触れた紅さんの身体は瞬時に僕の右横をかすめ、吹っ飛んだ。
大きな爆音と一緒に紅さんの身体は遥か後ろの大きな一本の木に激突した。
「紅さんっ!!」
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