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彼が優しい理由。(12)

 僕は紅さんにとってただの食料なんだから……。  それでも、好きな人にこんな表情をさせてしまった僕はなんて愚かなんだろう。  あまりにもマヌケすぎて、自分がイヤになる。  落ち込んでいると、頭上から僕がいるこの場所へ、大きな影が落ちてくる。見上げると、そこには蜘蛛の身体があった。  蜘蛛は今まさに、この場に降りてくるところだった。  紅さんごと、僕を押しつぶそうとしているんだ。  ……ぎゅ。  僕は怖くなって、紅さんの服を掴む。  だけど、紅さんは冷静だった。  僕を抱えていない片方の腕を伸ばし、紅色をした炎のような霊気を溜めはじめる。  そして、紅さんの指先に集まった霊力はゴルフボールくらいの大きさに収縮すると、僕たちを踏みつぶそうとしている蜘蛛へと投げ放つ。  紅さんが放った紅蓮の炎は蜘蛛の側面に見事命中し、見た目よりも大きな爆音が鳴り響く。  だからきっと、蜘蛛の姿をした霊体は滅ぶ。  そう、思った。  だけど――……。  だけど、巨大な蜘蛛は無傷で、そのまま僕たちを押しつぶそうと落下してくる。  紅さんは唇を噛みしめ、ひとつ唸ると、弾丸のような霊気を一発……。  二発……。  そして、続けざまに三発目を、落ちてくる身体の同じ部分に打ち込む。  これで霊体は滅びるだろう。  僕はそう思って疑わなかった。  だって紅さんの攻撃は爆音からして、とても強力な威力を持っているんだ。  だからきっと同じ部分に何回も霊気を当てたら滅びるに違いないって、そう思った。

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