151 / 253
彼が優しい理由。(19)
古都くんと鏡さんが想い合うように、僕のことも少しは想ってくれているのかと思い込んでいたなんて……。
だったら早く、『魂が欲しい』ってそう言ってくれたら良かったのに……。
優しくなんかしないで、他の霊体たちと同じように僕を襲えばよかったんだ。
そうしたら……こんな……胸がギュッと潰れそうな、苦しい想いなんてしなくてすんだのに……。
胸が……痛い。
苦しい。
「まっ、待て!! な、ソイツの魂ならお前にやる。少しでいいんだ。俺に分け与えてくれさえすれば!! な、いいだろう? ほんの一粒でいいんだよ」
――そうだ。
紅さんも僕の魂を狙っているひとり。だったら、無用な争いで僕の魂を奪い合うよりは、ふたりで分かち合う方がずっと要領がいい。
……ああ、胸が、潰されるみたいに痛い。
でも……それでいいのかもしれない。
これで僕は……この世界からいなくなることができる。
紅さんを見るのは、これが最後。
だから、僕は苦しくて泣きそうになる目を瞬(しばたた)かせ、紅さんの姿を焼き付ける。
「この期に及んで……。君は愚かだね……」
その言葉は蜘蛛の提案を拒絶したことを意味する。
紅さんが蜘蛛の上から飛び退く。――直後、蜘蛛の身体に無数の赤い亀裂が入った。
黒だった蜘蛛の装甲が赤い火花に包まれ、輝きながら散っていく……。
まるで、散りばめられた赤い宝石の数々が無数の色彩を放ち、光を屈折し合って、夜色の殺伐とした公園を覆っていくかのようだ……。
それはとても綺麗な光景だった。
輝く赤い光が公園内に舞う。その中で、蜘蛛が倒れていた場所に真っ黒な塊があった。
ともだちにシェアしよう!