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薔薇の香りに導かれ……。(7)
「そう。知恵をつけた狐が長く生き延びた末の存在。わたしたちは成人するまで、雪国の人が踏み入らない土地でひっそりと暮らす。争い事は好まず、ただ己の生きる術のみを見出し、子孫を育む。だが、成人すると故郷から離れ、こうして散り散りになり、花嫁探しの旅に出る。すべては、己の香りに導かれた魂の伴侶、つまりは宿縁を探して……」
「魂の……伴侶。しゅく、えん?」
「そう、宿縁。ふたつに分かれた同じ色の魂。己を高めるため、そして、魂を揺さぶる愛しき片割れ。わたしの……魂の匂いを嗅げる、唯一の花嫁」
……するり。
僕の目尻から流れ続ける涙は、紅さんの人差し指によって受け止められた。
「比良、人間とはかけ離れた存在である、わたしを怖いと思うかい? 気味が悪いと、そう思うかい?」
そんなっ!!
「思わないっ!!」
だって、いつだって紅さんは優しくて、他の人が見向きもしなかった汚い僕を受け入れてくれた。
紅さんが、たとえ、人ではなかったとしても、それでも、僕は紅さんのことが……。
「……好き」
言った直後、僕の口は息ごと、紅さんの唇に塞がれてしまった。
「ん……んっ……」
……好き。
すごく好き。
あなた以外、僕の魂を差し出せる人なんていない。
僕は、口を塞いでくる紅さんの背中に腕を回し、身を委ねた。
舌と舌が絡み合う、淫らな水音が耳を刺激する。
しばらく口づけを交わした後、紅さんの唇が僕から離れた。
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