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薔薇の香りに導かれ……。(8)

 同時に、『ちゅっ』ていうリップ音がやけに大きく聞こえた。  それだけで、僕は恥ずかしくなって、紅さんから目を()らしたくなる。だけど、紅さんはそうはさせてくれなかった。 「この、白銀の髪はまるで、故郷の雪国のよう……。わたしの心を、穏やかにさせてくれる」  今朝、紅さんが編み込んでくれた、僕の醜い灰色をした髪のひと束を掬い取られた。  匂いを嗅ぐように、口元へと持って行かれる。  赤茶色の目を細めて微笑む紅さんは、とても綺麗だ。  紅さんの綺麗な表情に見惚(みと)れていると、視線が重なった。  ――瞳孔が開き切った……なんていうんだろう。  獲物を狙うような、そんな目つき。  だけど、それは恐怖というものじゃない。  もっと、何か違うモノ。  その目は、僕のみぞおちを焼けるように熱くさせるんだ。 「黒真珠のような、濁りない、澄んだ真っ直ぐな瞳は、そうやってわたしを迷いなく写し出す」  ……ちゅ。 「……っつ!!」  目の前まで紅さんの唇がやってきたから思わず目を閉じると、両瞼(まぶた)に弾力のあるものが触れた。  それが唇だとわかったのは、目を開けた時に紅さんの顔が間近にあったから……。 「っ、くれないさんっ!!」  驚いて名前を呼んでも、紅さんは何ごともなかったかのように、また、続きを話しはじめる。 「滑らかな、絹のような真珠の肌は……いつまでも口づけたい衝動にさせてくれる……」 「っえ? あっ、ふぁ……」  ふんわりと僕の頭を撫でられ、頬に唇が触れる。  そうしてそのまま、頬を滑り、顎のラインを通って、首筋へと這う。  その先にあるのは、鎖骨だ。  鎖骨に当たった唇は、そのまま吸い上げ、甘噛みする。

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