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薔薇の香りに導かれ……。(12)
「くれないさん……」
僕の頬を伝う涙を止めようと、紅さんの唇が僕の両瞼に落ちてくる。
「ふ…………」
……紅さん。
乱れた呼吸を整えるために深く息を吸い、ゆっくり吐く……。
そしてまた、深く息を吸った時……。
紅さんが放つ甘い薔薇の香りが、僕の鼻孔から入ってきた。
「っはぁ……」
何度も深い呼吸を繰り返すうち、紅さんから流れ続けている甘い薔薇の香りが僕の全神経を支配していく……。
この感じ……なんていうんだろう……大きな海原に漂うような……。
お日さまの光をおもいきり身体に浴びて、水面に委ねるような、そんな感じ。
穏やかで、あたたかい……。
「ふぅ……」
気持ちよくなって、また甘い香りを鼻いっぱいに吸う。
そうしたら……。
「あっ……やっ……なに……やっ!!」
僕の背筋が、ゾクゾクしてきた。
身体中を充満するのは優しい香りだったハズなのに、薔薇は突然、僕に棘を与えてきた。
身体の芯が……疼く。
さっき欲望を放ったばかりの一物が、また欲望を持ちはじめていく……。
でも、さっきみたいな生易しい欲望じゃない。
身体全体が熱に侵され、ジクジクと疼いている。
熱い……。
身体中が焼けるみたいに……熱い。
「くれないさぁん、あ、やぁ……ふっ……あつい……やっ、コレ、なに!?」
じくじく、
ずきずき。
僕のすべてを支配していく熱い感覚は、身体を動かさないと何かに乗っ取られそうになるくらい、強い。
「くれないさぁんっ!!」
閉ざすことができなくなった口からは、唾液が流れていく。
腰が弓なりに反れる。
「あっ……」
お腹のあたりがムズムズする。
「薔薇……香り……やっ、だめっ」
全身が……熱い。
苦しい。
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