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素顔。(1)
穏やかな心地のまま、僕は閉ざした目をそっと開ける。
するとそこには真っ白い空間が広がっていた。
身体を起こせばじっと見つめてくる視線に気がついた。
だけどその視線は恐怖を帯びたモノじゃない。
だって少しも僕を驚かそうとはしないんだ。
だったら、いったい、なんだろう?
ぐるりと見渡せば、真っ白い空間ばかりが広がった世界。
それなのにおかしいね、何も取りこぼすことがないよう、ゆっくり周囲を見回すなんてさ……。
しばらく呆然と周りを見ていると……。
「うわわっ」
突然、僕の脇からふわふわしたモノが入り込んできた。
えっ?
なに?
ふわもこな感触がする右脇へと視線を下ろせば――……。
そこには綺麗な真紅の目と艶やかな銀の毛並みをした――。
一匹のあの狐がいた。
狐は耳を垂らし、僕にじゃれてくる。
なんだか犬みたいだ。
(かわいい……)
「……ふふ」
僕の身体に擦り寄ってくる狐の頭を撫でると、狐はスッと目を細め、もっと撫でてほしいと言わんばかりに身動きもせずじっとしている。
その姿がとても可愛くて、口から笑い声が漏れてしまう。
しばらく狐の頭を撫でていると、狐から薔薇の香りがした。
――あれっ?
この匂いって……。
そこで気が付いたのは、この狐がいったい何を示すのかっていうこと……。
狐。
真紅の目。
そして薔薇の香り……。
このみっつのキーワードは僕の中にあった疑問の答えになった。
父さんがこの世界からいなくなった直後、霊体に襲われたあの時に匂った薔薇の香り。
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