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誘惑なんてしてないですっ! (1)
閉じた目をそっと開けると、朝の眩(まばゆ)い、真っ白な光が、僕の視界に広がっていく――。
両目から溢 れた涙が目尻を伝い、流れていく……。
――ここは……?
見慣れない場所だ。
「うん……そう、うん……」
少し離れた場所から、紅 さんが親しそうに誰かと話している声が聞こえる。
歪んだ視界をなんとか元に戻そうと、瞬 きすれば、目尻からは、また新しい涙がこぼれ落ちる。
「比良 ? また泣いていたの?」
……もう、お話しはいいのかな?
いつの間にか、隣に腰を掛けた紅さんが、僕の顔を覗き込み、微笑んでいた。
伸びてきた優しい指が、涙が溜まった目尻を、そっと拭ってくれる。
「……ん」
それがとても嬉しくて、僕は手を伸ばし、紅さんの手に触れる。
「比良……何か飲む? 喉、渇いたでしょう?」
「ふ……」
僕の口から声が漏れたのは、今まで目尻にあった指が、閉じている僕の唇に移動したから……。
「比良は美しいね……」
前までだったら、紅さんの言葉に反論を唱えていたけれど、今はその言葉が嬉しくて、微笑んでしまう。
「美しい……」
紅さんがもう一度ぽつりと出した言葉は、自分に呟いたようだった。
僕の唇の間に割り込む紅さんの指が、さらさらとなぞる。
「ずっと塞いでいたい……」
また、呟く紅さんと、僕との距離が近づいて……。
「んっ、んっ……」
僕の唇の輪郭を舌で優しくなぞってから、チュッ、チュッて何度も啄 まれる。
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