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誘惑なんてしてないですっ! (2)

 紅さんと僕の唇がくっついては離れて、離れてはくっついて、そのたびにリップ音が鳴っている。  ……恥ずかしい。  そう思う反面、もっとこうしてキスしていたいと願ってしまう。  だから僕は、両の手を、紅さんの広い背中にまわした。 「比良……」 「んっ、んっ、はっ……」  落ちてくるキスの合間に、僕を呼ぶ。  そのたびに、僕の身体は、紅さんを求めて震える。 「……愛してます」  込み上げてくる感情のまま、そっと告げると……。  ……ふんわり。  僕の身体が、浮いた。 「うわわっ!!」  突然、僕の身体が浮いたから、不安定になって、床に落ちると思った。  僕は迷わず、近くにいる紅さんの首に、両腕をまわしてしがみ付く。 「あまりそういうことを言わないで。また、君の甘い声を聞きたくなってしまう」  気がつけば、身体を包んでいた毛布はベッドの上に置き去りになり、僕は裸のまま、横抱きにされて、紅さんの膝の上にいた。  紅さんにキスされて、もう何も考えられなくなった僕はそのままジッとしていると、射抜くような視線が落ちてくる。  ……つと、見上げれば、僕の視線は赤茶色の目と絡まる。  たった、それだけ。  それなのに、僕の身体は、すぐに熱を持ちはじめる。  そして、思い出されるのは昨夜の出来事――。  蜘蛛(くも)の霊体に襲われ、易々とそれを退治した紅さん。  そんな紅さんは、実は妖狐というあやかしで……。  だけどそんなこと僕にとってはどうでもよくって……。  だから僕は紅さんに抱かれた。  女の子みたいな、声を上げて紅さんが欲しいと懇願した……。

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