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誘惑なんてしてないですっ! (12)

 お願い、そんなふうに悲しまないで。  僕は、あなたに抱かれてとても嬉しかった。  さっきのだって、僕を想っての行為だったことは知っている。  だから……。 「へ……いき……」  紅さんを安心させたくて、にっこり微笑んで見せる。  だけど、力を失ってしまっているからうまく笑えているのかわからない。  それでも、笑顔をつくった。 「比良……愛している」  紅さんの唇が、僕の口に当たる。  それは、とても優しい口づけだった。  唇が離れると、また塞がれ、同時に、重ね合わせた紅さんの口から、何かの液体が注ぎ込まれる。 「ん……んっ」 「飲んで……」  離れた唇の後に言われるままに喉を動かし、飲み込む。 「ん……」  ……コクン。  液体が喉を通った瞬間、それが水だとわかった。  お風呂の中で、ひらきっぱなしだった口。  喉は、もうカラカラで、口の中に入ってきたお水がとても美味しかった。 「もっと……」  水が欲しいと強請(ねだ)ると、また柔らかい唇の感触と一緒にひんやり冷たい水が僕の口内へと入ってきた。 「おやすみ。愛おしい比良」  喉がすっかり潤った後、最後に額に口づけられ、僕は安心して目を閉じた。  そんな中でふと頭の中を過ったのは、朝起きる時に紅さんが誰かと話していたこと――。  誰と何を話をしていたのか、目が覚めた時に()いてみよう。  僕は紅さんにもたれたまま、精神を深い底へと誘わせた。

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