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「愛している」の、本当の意味。(8)

 口から息ができないから、代わりに鼻から息を吸い込むと、甘い香りが僕を襲う。 「ん……んっんぅ!!」  やめて。  好きでもないのに、こんなキス……やめて。 それとも、まだ僕を騙そうとしているの?  愛していると嘘を言って、僕を苦しめるの?  やめて。  いやだ!!  僕は必死になって紅さんの腕から抜け出そうと試みる。  身体を(よじ)って、紅さんの、分厚い胸板を両手で押す。  でも、やっぱりびくともしない。  それどころか、鼻から息を吸い込むたびに、甘い薔薇の香りが僕の頭を麻痺させてくる。 「ん……ふっ……んっ」  抵抗していた手はいつの間にか紅さんの腕にしがみ付く――。  鼻だけじゃ息がしにくくなって、口をひらけば紅さんの熱い舌が僕の口内に飛び込んできた。 「っぁ……」  紅さんの舌が僕の舌を絡め取れば、誘惑に負けてしまった。  僕も同じように、紅さんの舌に絡めた。  先端を使って舌の形をなぞっただけで、お腹の奥深くがゾクゾクする。 「っふ……ぁ…………」  舌が触れ合うたびに、クチュクチュという水音が僕の耳を刺激する。  僕自身は熱を持ちはじめ、さっきまでの抵抗も忘れて、ただただ紅さんの与えてくれる快楽に染まっていく……。  どのくらい、そうやって唇を重ねていただろう。  唇が、ゆっくりと離れた。  絡めていた舌も離れていくけれど、名残惜しそうに、白い糸で繋がっている。  まるで、紅さんと離れたくないっていう、僕の心と同じように……。

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