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「愛している」の、本当の意味。(9)

「比良……愛おしいわたしの妻……」  紅さんの指が、僕の頬を撫でる。 「……ん」  それは、優しい触れ方……。  だけど強い刺激が、僕を襲った。  たったそれだけのことなのに、僕の胸がトクンと跳ねる。  僕のことを、少しは好きになってくれているって、勘違いをしそうになる。  ……そんなこと……有り得ないのに……。 「なぜ、わたしが君を好いていないと思った?」 「くれないさん……ぼくをたすけるために抱いたんでしょう? それってぼくに、くれないさんの妖力を……あたえるため……」  言いようのない脱力感があるまま、言葉をはじき出せば、おぼつかない、幼児が話すように、たどたどしい。  呂律(ろれつ)がうまく回っていない。 「比良……。わたし達の会話を聞いていたんだね」  力なく、紅さんの胸越しでコクンと頷くと、紅さんは話を続けた。 「比良、そうだね。たしかにわたしは君を抱けば妖力を与えられるとかねてから思っていた」  ――ああ、やっぱりそうなんだ……。  愛とかそういうものじゃなくって、ただ純粋に、絶望の淵に立った僕を救おうとしただけなんだ……。  脱力したまま、僕の手が、力なく拳を作る。  今の感覚は、だるい身体の中心にだけ、芯がピリリと立った感じだ。  胸がいたい。  苦しい……。 「比良……聞いて……」  聞きたくない。  僕を好きじゃないっていう言葉なんか聞きたくない。  だけど……紅さんともっと一緒に居たいと思っている身体は言うことを聞いてくれない。  優しすぎる、残酷な紅さんをじっと見ることができなくって、視線を逸らした。

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