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力の使い方。(1)
「比良 、準備はいい?」
「はい」
僕と紅 さんは今、紅さんの家から少し離れた山の中にいる。
紅さんに告白して、抱かれたのはもう3日前の出来事だ。
両想いになれた今は、紅さんに与えてもらった妖狐の力を扱う練習をしている。
「比良、目を閉じて、深呼吸をするんだよ」
コクン。
僕はひとつ頷いて、紅さんに言われたとおり、目を閉じる。
深く息を吸って、吐いて……吸って、吐いて……。
そうすると、昼間の太陽の光が僕を包んでいくのがわかった。
……穏やかで、あたたかい。
力強い太陽。
まるで紅さんみたいだ。
そのまま、もう少し深い呼吸を続けていると、小鳥たちが僕に話しかけてくるように、可愛いさえずりが聞こえてきた。
瞼 の裏には、穏やかな陽の光が一身に降り注いでくる――。
気持ち良くて、うっとりしてしまう。
身体の芯がボーッとして、今僕が立っているのかも座っているのかもわからなくなった。
まるで、ふわふわと宙を舞っているような、そんな気持ちだ。
もしかしてこれが恍惚状態っていうのかな?
『まぁ、あの子新入りさんかしら?』
『新入りさんね』
――えっ?
しばらくの間、うっとりとしていると、小鳥のさえずりが、人間の言葉に変化したんだ。
びっくりして目を開けると――。
……グラッ。
僕の身体が不安定になった……。
「あわわわわっ!!」
「比良!!」
ドサッ!!
緑色の草の絨毯 に倒れてしまった。
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